今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

『歌川国芳 浮世絵美術館』建設予定案について

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歌川国芳源頼光公館土蜘作妖怪図》
(約4000文字・購読時間5分00秒)

地域の特長

 東京都区部は東京都の東部に23区からなる地域である。区部の中心部には都市機能が集積しており都心と呼ばれる。東京都の人口はおよそ1350万人で、周辺県にはベッドタウンが点在する。一極集中が加速するに連れて、他の大都市から東京都区部に本社を移転し、東京都区部に労働力が集中するようになった。渋谷区や港区にはIT企業が集中するようになり、新産業として若い労働力を吸収するようになる一方、情報通信インフラの整備に伴い、本社機能を東京に置く必要がないとして移転する企業も見られている。直近のコロナ禍により、在宅ワークを推進する企業も出てきており、会社に通勤しなくてすむ状況も生まれつつある。これは、人口の減少が加速する可能性につながる。消滅可能性都市として豊島区が顕著であるとした。東京都教育員会の推計結果によると、公立小学校の児童数は、2024年度まで増加傾向にあり、その後、減少に転じると予測されている。

 既設の美術館は、公設では上野に東京都美術館国立西洋美術館、六本木に国立新美術館など国を代表する美術館、私設では森美術館、アーティゾン美術館など、日本でも指折りの著名な美術館がある。また、地元に根付いた作家を取り上げた、すみだ北斎美術館や、廃校を再利用した3331 Arts Chiyoda、東京おもちゃ美術館といった、一風変わった施設もある。

 

(1)名称

 歌川国芳 浮世絵美術館

 

(2)立地

 歌川国芳の生誕の地であり、代表作である《木曽街道六十九次之内》の舞台となった中山道の起点である東京都中央区

 

(3)設置者

指定管理者制度により東京都中央区が選出した法人

 

(4)施設

 近年、人口の減少により小中学校の廃校が増え、再利用の方法が検討されている。その廃校舎を再利用する。もともと教育の場であったため、立地的にも生涯教育の場としての美術館への転換は地元の理解も得やすく、適していると考える。学校は地域にとって象徴的な意味合いを持つ場合が多いため、すでに廃校になった校舎を美術館へ再利用する試みが各地でなされている。例として、3331 Arts Chiyodaや、東京おもちゃ美術館がある。建物自体の堅牢性や、バリアフリーなども最小限の投資で済むうえ、保管室、展示室、その他集会所、調査研究室、事務等のバックヤードなど、美術館で必要な施設、設備は学校施設を流用できる部分が多い。

 

(5)コレクションの内容

 中山道の宿場町を舞台にした《木曽街道六十九次之内》を始めとした歌川国芳(1798-1861)の作品、また、同時代の浮世絵を中心として収集する。

 水滸伝に登場するヒーローを一図ずつ武者絵として描いた《通俗水滸伝豪傑百八人之一人》のシリーズで一躍、脚光を浴びた。その後の作品は役者絵、武者絵、美人画、名所絵から戯画、春画までさまざまなジャンルにわたっているが、中でも歴史・伝説・物語などに題材を採り、大判錦絵を3枚つづりの大画面のワイドスクリーンのようにとらえ巨大な鯨や骸骨、化け物などが跳梁するダイナミックな作品も特徴である。また、無類の猫好きとしても知られ、猫を擬人化した作品も多く《朧月猫草帋》などがある。狸・雀・蛸などの身近な動物を擬人化して江戸の庶民の生活を描写した作品も豊富で寄せ絵や、自宅で絵を描く自身の顔の前を、絵の中の動物や人物が横切り、自身の顔を隠している自画像のような遊び心のある作品も国芳の得意としたもので、これらを対象に収集する。他に、同時代の喜多川歌麿写楽歌川広重なども収集する。

 

(6)年間事業計画の概略

 江戸時代の浮世絵を中心に収集、研究、展示につとめながら、子供向けの教育、生涯学習に関する講座を開催する。

 

1.資料の収集、保管事業・貸出等事業

 江戸、東京の歴史と文化に関する資料の情報収集に努め、収集方針にもとづき着実に資料の収集、保管を行う。特に、歌川国芳と同時代の浮世絵を重視する。さらに、大衆文化その他これに関する研究資料、文献等を収集・整理し、浮世絵の研究拠点として充実を図る。収集した作品は、調査を実施し、整理・分類・登録した後、収蔵庫内に最適な環境で保存する。また、作品をデータベース登録し、デジタル化や公開も進め、外部利用者へのサービス等に積極的に活用する。

2.展示事業

 常設展示を活用し、計画的に展示更新を行うとともに、館蔵品や寄託品等の作品をより広く市民の方々に展示することに努める。これらの展示事業を通じて、市民の文化や情操・教養の向上を目指す。収蔵品や最新の埋蔵文化財の調査結果にもとづき、地域やジャンル、速報性などを考慮し、東京の歴史と文化に関わるテーマで企画展示を開催し、リピーターの増加・ 定着を図る。

3.調査・研究事業 

 博物館全体で取り組むプロジェクト調査、学芸員の個別テーマによる研究、館外研究者との共同調査研究を行うほか、市民参加による調査活動もおこなう。その成果を展示・講演会・シンポジウムなどを開催し研究発表することにより都民へ還元する。また、研究の内容を充実したものとするため、科学研究費補助金をはじめとする各種の学術研究補助金など外部資金の獲得にも努める。 

4.教育・普及事業 

 子供向けの体験教室、入門的な体験型イベントなどを実施し、都民や子供たちにわかりやすく、かつ、水準の高い東京の歴史・文化を学ぶことのできる機会を提供し、 地域で育まれた伝統文化に触れる機会を提供する。自分たちが住んでいる身近な地域を知ることにより、子どもたちが地域社会の一員としての自覚をもち、 地域社会に対する誇りと愛情を育てることができるように郷土学習の機会を提供する。

 博学連携は、学校からの要望の把握に努め、事業の充実と質の向上を目指していく。学芸員を講師として学校へ派遣する出張授業や博物館資料の教材としての貸し出しなどを通じて授業に協力する。

 また、生涯学習の普及を目的として、シニア世代の都民が展示や講座などを通じて地域で生き生きと活動を続けられるよう、都の福祉部門とも連携を図っていく。

5.情報発信、広報宣伝 

 情報誌等の図書の刊行・頒布を行い、各種情報や行事の発信に努める。美術館の活動や学芸員による展覧会の見所やスケジュール等を掲載し、多くの人々に広く周知、興味や親しみを抱けるようにする。

 ポスター・チラシなどの印刷媒体については、展覧会開催ごとに目を止める人の多い鉄道駅や社会教育施設への設置を重点的に行い、媒体の特質と情報へのニーズを結びつける広報を展開していく。

 ネットメディアでは、広報活動を支援し、情報発信機能を高めるため、ホームページを開設する。年間展示予定、展覧会情報、データベース等を掲載するなど、年間を通した利用促進を図る。また、SNS等を活用し、展覧会や各種イベント等の情報をリアルタイムに提供する。他にGoogle Arts & Cultureなどへの作品画像の提供により、優れたコレクションを広くアピールしていく。

6.他の博物館・美術館との連携

 東京都内の江戸東京博物館すみだ北斎美術館や、中山道広重美術館など、中山道の宿場町に点在する博物館・美術館と協力、連携して、共同研究、共同事業などを通じて地域との協働・交流を促進する。また、他団体が開催する事業に対し、資料貸出し、企画、講師派遣で協力する。

7.その他の事業

空きスペースをテナントとして飲食店などに貸したり、アーティストやグループなどの展示イベントなどを行えるスペースなどとし、気軽に立ち寄れる場所にするとともに、収益化も行う。

 

(7)館建設の意義と館の特徴

 国芳は、江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人であり、画想の豊かさ、斬新なデザイン力、奇想天外なアイデア、確実なデッサン力を持ち、浮世絵の枠にとどまらない広範な魅力を持つ作品を多数生み出した。そのユニークな画風から、奇想の絵師などと呼ばれ、近年再評価の気運が高まり、広い世代の人気を集めている。当時の人々の圧倒的支持を得、多くの門人が集まり、浮世絵師の最大派閥を形成した。浮世絵の新機軸を生み出し、絵師たちに意識改革を与えたことは国芳の大きな偉業のひとつといえる。これらからは現代日本にて盛んな漫画・劇画の源流の一つを見る事ができる。大鯨も妖怪も大海原も縦横無尽に描かれた国芳の絵は、江戸の人々だけでなく、その系譜は昭和の日本画家まで連なり、現代の私たちも魅了し続ける。読本や芝居のアクションシーンなど物語を描くことが十八番だった。その物語性によって、マンガやアニメと同じような感覚で、今、広く受け入れられてたのかもしれない。

 そこで、地域ゆかりの人物である、歌川国芳のコレクションを集めることにより、作風がその後に与えた歴史を辿れるようにする。現在の文化へと結びつけ、鑑賞することにより、国芳の顕彰を通じて地域に愛着を深める場を提供する。また、子供の教育や、都民の生涯学習の場としての意義も持たせていく。地域文化の継承と発展の場として、地域とのつながりを重視した、息の長い施設づくりをめざす。これらの事業活動を通じて国内外に向けて情報を発信し、交流の場として、歴史と変化のある美術館として東京における文化と芸術の情報拠点となることをめざす。

 

参考文献

博物館学入門―地域博物館学の提唱』金山喜昭(慶友社)

 

 

『美術館商売―美術なんて…と思う前に』安村敏信勉誠出版

 

 

『アーツ・マネジメント概論 三訂版』小林真理・片山泰輔 監修(水曜社)

 

 

『美術展の不都合な真実古賀太新潮新書

 

 

『新時代の博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会編(芙蓉書房出版)

 

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『新しい博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会(芙蓉書房出版)

 

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『現代の記念物崇拝―その特質と起源―』アロイス・リーグル(中央公論美術出版