今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

博物館によるデジタルアーカイブ構築の意義

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(約1700文字・購読時間2分10秒)

 博物館は文化財保護法第1条にその目的を「文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もって国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献すること」と規定しており、保存と活用は文化財保護の重要な柱と考えられている。保存と活用を共に尊重し、文化財の継承と地域の持続的な維持発展を共に目指すことが必要である。長い歴史の中で伝えられ、守られてきた文化財は、我が国の歴史や文化の理解に欠くことのできない、かけがえのない貴重な遺産である。精神的、物質的な豊かさの基盤として地域や国の歴史や文化そのものであるとともに、国際的な交流の中で文化的多様性の理解、対話、協力に貢献しうるものである。一方、社会構造や価値観の変化、過疎化や少子高齢化などが進む中で、これまで文化財を守ることで伝えられてきた伝統的な知と技だけではなく、文化財を国民、社会の宝として、様々な形で共有し、適切に活用することを通じて新しい文化の創造を促進していくことが求められている。

 しかし、文化財の保存、展示には限界がある。空間的制約、物自体の制約があるうえ、文化財への負荷をかけることは避けられない。そこでデジタル化して蓄積しておき、必要に応じて検索し表示できるシステムの構築が望まれる。デジタルアーカイブとその共有である。各機関が自らのデータベースのデジタル化をおこなえば、ネットワークにより、それを統合したデータベースを構築することが可能になる。

 例として文化遺産オンラインは文化庁が運営する、日本の文化遺産についてのポータルサイトをあげる。2008年に全国の博物館・美術館にあるものを、画像込みで集めて、国民が喜んで使えるという目的で開設された。国や地方の有形・無形の文化遺産に関する情報を提供するサイトであり、全国の博物館・美術館等から提供された作品や国宝・重要文化財など、さまざまな情報を提供している。「時代から見る」「分野から見る」「文化財体系」「地図」とジャンル分けされており、解説付き・地図付きで掲載されている。現在、写真ありが約2万点、文字情報のみのものを入れると12万点ほどの情報が登録されている。

 これらは現在2次元的な表面を撮影した情報にとどまっている。文化財のデジタル化は2次元ばかりではなく、3次元のものも重要である。将来的には内部講造や赤外線を使った映像などの記録が役に立つだろう。CTのような装置や材質分析にしてもその成分分析の結果を数値として記録するにとどめず、グラフ的な表示デ ータをそのまま残していくということも必要だろう。将来的には数値、文字、画像、音響、などすべてにわたってその媒体の違いを意識しないで扱えるデータベース構築が理想である。

 一方で、懸念点も存在する。デジタルアーカイブは現在、公私で行われており、文化遺産オンライン以外にも、e-国宝、トッパン VRデジタルアーカイブGoogle Arts & Cultureなど複数存在する。これらは規格が違う上、どうしても国宝、重文優先になっている。規格が違うということは、後々、その規格のファイルを開けるソフトが作られない、さらにソフトを動かすOSがなくなるという危険が常に付き纏う。せっかくデジタル化してもファイルの中身を見ることができなる。新たな規格ができたら、その度にファイル形式を変換をしたり、精度の高い機材が出来るたびにデジタルスキャンをし直さなければならない。さらに、CDなどの光学メディアは媒体にも問題がある。材質の関係上30-50年程度で劣化し、データを読み出せなくなってしまう。もちろん、デジタルの良いところは、データは劣化しない、無限に複製出来る、物理的な場所を取らない、などあるが、まだまだ技術に進歩の余地があり、今、デジタル化したものが完璧というわけではない。より高精細、低容量、ハイスピード、更には匂いや触感なども記録、再現できる様になるだろう。現時点ではデジタル、アナログ、それぞれ一長一短があるので、両方をできるだけ有効活用して遺していくことが重要だと考える。