今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

美術批評 AKIRA ART OF WALL Katsuhiro Otomo × Kosuke Kawamura AKIRA ART EXHIBITION

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AKIRA ART OF WALL

AKIRA ART OF WALL Katsuhiro Otomo × Kosuke Kawamura AKIRA ART EXHIBITION

(約1800文字・購読時間2分20秒)

 渋谷PARCO建て替え工事の仮囲いを美術演出したART WALLを再度巨大コラージュ作品として展示したものになる。元のART WALLは渋谷の街のパブリックイメージであるカルチャーの震源地としての役割をもっていた。 渋谷パルコの原点を表すキーワードである“インキュベーション”、“街づくり”、“情報発信”。 大きく再起動しようとする街の時代背景に合ったデザインとは何かを意識した企画である。漫画はストーリーで進んでいく事が前提にあるのでその時間軸を取っ払いストーリーを追うのでは無く全て絵の流れのみで構築する。時系列では無く巻数を無視しバラバラなところから持って来た前後の繋がりの無い絵を使いアート作品を作るという事に重点をおいた。広告でも無く、漫画としてコマで見せる事でもなく一枚絵のアート作品とし、ただの絵の集合体では無く元々のストーリーと錯覚させるような流れのある作品になっている。AKIRA自体が漫画の枠を超え既にアートになっているが、更にコラージュという別のアプローチで現代に落とし込めた。『AKIRA』が描いた東京=破壊というイメージが強いが、実は漫画の『AKIRA』のラストでは再生の光が差している。この破壊から再生へこそが、『AKIRA』のいちばん強いメッセージであり、アートに昇華した。

 『AKIRA』のブランドは2019年に再評価されたわけではなく、ずっと価値をキープしている。アートウォールを前にパルコの場所だと会話が生まれ、記憶に残る。渋谷パルコだけではなく、今渋谷では100年に一度の規模と言われる再開発が行われているが、おそらく東京オリンピック後の歴史のなかで、現在のことが振り返られるときには、工事ばかりだったという記憶が刻まれる。その記憶の一部に、アートウォールが、時代の転換期の象徴となる。実際、破壊から再生へということで言えば、『AKIRA』は近未来を舞台にしつつも、そこで描かれるネオ・トーキョーは、いわば近過去の東京を移植して創られているように見える部分が多分にある。建設中の東京オリンピックのスタジアムや、ドロップアウトした少年たちの暴走族だ。『AKIRA』が連載された1980年代は、高度経済成長が終わってすでに久しい時代だった。そのような状態の東京を物語の冒頭でいったん破壊することによって、復興と成長の熱気が冷めやらぬ60〜70年代頃の東京を、近未来に移植している。その翌年に第二次東京オリンピックを控えたネオ・トーキョーも、再びアキラに破壊される。つまり、破壊と復興を反復させる装置としてアキラは機能していて、熱気に満ちた成長途上の状態を永続させる都市がそこに創出されているように見える。そのような魅力が、建設現場であるということと相まって、このアートウォールによって敷地に注入されているように感じる。大友の作品は、若者の魂が宿っていることが一貫している。物語が違うだけで、いつもたぎった何かがある。そこはパルコが行ってきた、若者への発信というポイントともシンクロする。加えて平成の停滞を経て醸成された、改元やオリンピックで新しい時代を迎えようという空気にもマッチしている。絵をつくる人には、自分の絵がいつもより大きく展開することに対して、シンプルに喜びを抱く方が多い。今回は日本だけでなく、世界から『AKIRA』を愛する人たちにも来て、いままで作品に触れたことのなかった若い世代にその魅力を届けた。

 キービジュアルは登場人物の一人である“鉄雄”が“AKIRA”の力に飲み込まれて胎児化した絵と、物語の中で対峙する“AKIRA”の力を持ち、コントロールすることが出来る“ミヤコ”が中心に並ぶ。さらに手前に、小さく、力の抜けたようなポーズの少年“金田”が立ち尽くす絵が配置されている。この少年“金田”は『AKIRA極音上映会』でバイクに向かうツナギの背を向けた少年と同一人物である。この展覧会はマンガ『AKIRA』のコラージュであり、映画の『AKIRA』とはストーリーが違う。映画で中心人物であった少年“金田”はマンガ『AKIRA』では群像劇の登場人物の一人のように扱われる。このフライヤーでは物語の終盤“鉄雄”と“ミヤコ”の膨大な力になすすべなく呆然とする姿が表されているようである。このようなシーンは作品内では登場しないが、ストーリーのクライマックス直前の状況をコラージュによりひとつのシーンのように表されている。

 

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