今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

博物館教育論 幼少、少年期における博物館教育の重要性について

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(約3500文字・購読時間4分20秒)

 幼少、少年期における教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであり、 健全な発達のために必要不可欠である。それらの活動を通じて培われたものが基礎となり、生涯にわたる発達を支える。生涯学習においても、幼少、少年期に味わった学びの喜びが、生涯にわたり主体的に学び続けることの喜びの基礎となると考えることができる。学びの喜びを味わうと同時に、美術館を含む博物館を利用する機会を得て、美術館で学ぶことの面白さに触れることは、生涯にわたり社会教育機関を有効に活用しながら学び続けることへの端緒となるのではないだろうか。

 博物館と学校とが望ましいかたちで連携・協力し合いながら、子供たちの教育を押し進めていこうとする取り組みとして博学連携がある。博物館や美術館は地域にある社会教育施設で、いずれも貴重な教育資源であると言える。これまでは、博物館を見学する機会は社会科や総合的な学習の時間、学校行事などであった。しかし施設見学では博物館側の担当者と十分な打ち合わせをすることなく、見学が学校や教師の都合だけで行われたり、逆に施設の担当者にすべて任せてしまったりするなど、学校と博物館との連携が十分とれないままに行われてきた。 そのために、博物館のもつ豊富な情報や教育的な価値が学校の教育活動に十分生かしきれなかったと言える。 博物館と連携をとり、教育的価値を学校として活用することが学習に有効であると考える。博物館には学芸員などの専門家がおり、教科書では見られない実物や本物の教材がある。教室とはまた違った学習の場になる。もう一つの学校としてとらえることによって、子どもたちの学びの場や内容を広げることができる。

 そこで、博学連携は博物館と学校がそれぞれの教育機能を活かして連携・協力し、よりよい形で子供たちを教育していこうとする活動と考えることができる。ティーティーチングの形式で先生と活動すること、基本的プログラムをもとに授業や来館して学ぶ内容などを一緒に検討している。一方通行ではない、相互連携の形式で行なっている。学校と博物館が連携・協力し推進していく教育活動は多種多様である。博物館の機能を活用することで、自らすすんで見たり、聞いたり、調べたりし、そのバックグラウンドを考えたり、内容をまとめてみんなに伝えたりすることができる。また、視覚、聴覚、触覚などによる体験活動を伴う学びを行うことで、より高い興味・関心やより深みのある知識、より豊かな情操を育んでいくことができると考える。学びの場における学校と博物館の関係は極めて強いものだといえる。 博物館文化、及び生涯学習の意義が更に社会に浸透することで、日本でも、生涯学習が人々のキャリアや余暇活動に良い影響を与えて人生を豊かにし、社会・経済の発展にも貢献するものであることが認知され、より豊かな社会づくりに寄与することができるだろう。そのためにも、今後も博物館はその機能を拡張し、多様なニーズを創出し応えていく必要がある。

 最近の博物館では、見て学ぶだけでなく、触って、試して、体で学べるような参加体験型、ハンズ・オン型も工夫されている。それぞれの博物館の特質を生かした利活用が求められる。 一般には、学校から博物館に直接出向くことが多く行われている。これはこれで教育的な利用方法だが、学校が博物館から離れていたり、時期的に見学することが困難だったりすることがある。展示物の一部を貸し出したり、学校を巡回しながら展示したりしている博物館もある。移動博物館、出張展示などと言われている。博物館の学芸員などに出前授業を依頼することもできる。 博物館と学校の双方がそれぞれの特質を発揮しながら、連携・協力体制をつくることが重要なポイントである。さらに、これからの新しい博物館像として、集めて、伝えるという基本的な活動に加えて、市民とともに資料を探求し、知の楽しみを分かち合うという博物館文化の創造が必要になる。すなわち、これからの博物館の望ましい姿は、交流、市民参画・連携する学習支援機関としての役割の充実である。教育システムでは家庭教育、学校教育、社会教育を結ぶラインの中で、責任区分が明らかになり、博物館本来の教育機能を発揮することを強く求められており、欧米の博物館がいち早く教育重視の方向を打ち出し、博物館の全ての活動は教育に収斂されるとしたのは、まさに時宜を得たものである。 

 何を学ぶかを迷い、時には遊んだり、楽しんだり、そして学んだりするといったプロセスが展開される。今までの学習経験を振り返り、何を学ぶかを選択することになる。学校における半ば強制的な学習と博物館等での自由選択学習の体験から、子供たちは内面に多様な意味を形成し、その経験に基づき、将来の学習の道筋を選択していくだろう。このような学校教育と自由選択学習の繰り返しが、将来の学習の道筋を見通し、生涯学び続ける態度を形成することになる。子供たちは学校で訪問した博物館がきっかけとなり、休日に個人で博物館に行くこともあるだろう。あるいは大人になってから学校で見学した博物館のことを思い出し、親として子供をつれて博物館を訪れるかもしれない。博物館は学校による博物館利用を子供たちの次の個人利用に結びつける工夫をする必要がある。

 江戸東京博物館では館員の研究成果を都民に還元すべく、えどはくカルチャーを行なっている。都民に開かれた生涯学習及び知的交流の場として、広く一般を対象に、入門又は専門的な関心を深めるための講座・セミナー・ワークショップ等を企画・実施し、子どもから大人まで幅広い層を対象として、江戸東京の歴史と文化を学べる機会を創出するなど、都民の文化活動を支援していく。江戸東京の有形・無形の文化遺産と伝統文化を次世代の人々に継承すべく、改修後のホールを活用し、落語をはじめ、琴、長唄、筝曲、日本舞踊などを紹介する場としている。 具体的には、常設展示室内中村座前アリーナで開催する、えどはく寄席、学芸員による収蔵品を活用したワークショップ 、東京都の伝統工芸士などによる体験型ワークショップなどがある。

 子どもたち及び青少年を対象とする企画としては、次代を担う子どもたちや青少年を対象として、参加体験型事業、学校と連携したスクールプログラムなどを企画・実施し、江戸東京の歴史と文化にふれる機会を提供するとともに、文化のリテラシーを育み、歴史と文化を継承していく。 小学生から大学生を対象とした 学校教育に連動したスクール・プログラムとして訪問学習・職業体験学習、教育普及ツールの配布、教員向け利用相談会などを行なっている。 学習施設としての性質を明確に打ち出し、次世代へ歴史と文化の継承を図っている。次代を担う子どもたちや青少年を対象とする教育普及事業を企画・実施している。学校との協働、社会科見学、修学旅行、平和学習、環境学習などの独自プログラムを開発し、学校団体の利用を促進している。またフリースクールなど各種学校との連携を促進している。 

具体的にはえどはく寄席の小中学生向け公演である、伝統芸能ウィーク 、大学書道科学生によるワークショップ正月書初め体験、ボランティアによる伝統文化を体験するワークショップのふれあい体験教室がある。

 博物館は、その特徴である資料の収集や調査研究等の活動を一層充実させるとともに、多様化・高度化する学習者の知的欲求に応えるべく、自主的な研究グループやボランティア活動などを通じて、学習者とのコミュニケーションを活性化していく必要がある。情報化の進展やニーズの多様化とともに、特に新たな公共を担う拠点として博物館には教育サービスの充実が求められる。 こうした社会の要請にこたえるためにも、博物館の規模に応じて適切な人数の学芸員が配置されるよう体制面の整備が必要である。また、学芸員あるいは博物館同士が組織や地域の枠を越えて互いに連携協力していくことにより教育サービスが向上することが考えられる。このような連携・協力を具体的に実現できる技能はこれからの学芸員の要となる能力である。これからの学芸員には専門分野に関する幅広い知識のみならず、教育能力やコミュニケーション能力、経営能力がますます重要な資質・能力となっている。

 さらに、最近では、物質的な充足感を求めるだけでなく、精神的な満足感を追求し、充実した生活スタイルを目指そうという人達が増えてきている。こういった社会の現象が美術品や歴史資料といった文化財への関心の高まりにも繋がっている。

 

参考文献

『博物館の学びをつくりだす その実践へのアドバイス』小笠原喜康、チルドレンズ・ミュージアム研究会 編著(ぎょうせい)

 

『新時代の博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会編(芙蓉書房出版)

 

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『新しい博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会(芙蓉書房出版)

 

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