今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

日本の博物館における広報活動について現況と展望

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(約1400文字・購読時間1分50秒)

 今日の美術館の経営において、マーケティングを含めた広報の役割は日に日に増していっているといっていいだろう。いくら素晴らしい展示をしたり、貴重な資料の展示を行なっていても、それが利用者に伝わらなければ意味がない。時代の移り変わりにより、様々なメディアが生まれてきたが、それらを有効活用するべきだと考える。

 公立の博物館、美術館は多くが公費によって賄われているが、入場者数、利用者数はその施設の価値を表す指標として大きな意味を持つ。予算の獲得、さらに自ら運営費を賄えるよう収入を得るために多くの人への広報活動を行い、認知してもらうことは博物館運営において重要なこととなる。

 具体的には、情報誌等の図書の刊行・頒布を行い、各種情報や行事の発信に努める。美術館の活動や学芸員による展覧会の見所やスケジュール等を掲載し、多くの人々に広く周知、興味や親しみを抱けるようにする。ポスター・チラシなどの印刷媒体については、展覧会開催ごとに目を止める人の多い鉄道駅や社会教育施設への設置を重点的に行い、媒体の特質と情報へのニーズを結びつける広報を展開していく。ネットメディアでは、広報活動を支援し、情報発信機能を高めるため、ホームページを開設する。年間展示予定、展覧会情報、データベース等を掲載するなど、年間を通した利用促進を図る。また、SNS等を活用し、展覧会や各種イベント等の情報をリアルタイムに提供する。他にGoogle Arts & Cultureなどへの作品画像の提供により、優れたコレクションを広くアピールしていくなどが考えられる。

 中でも近年影響力が増しているのはネットメディアの活用である。方法としては二種類があり、博物館側から発信するタイプと、利用者側から発信するタイプである。博物館側から発信するタイプでは自前のホームページやSNSアカウント開設、データベースを文化遺産オンラインやGoogle Arts & Cultureなどに登録するという施策がすでに多くの施設で行われている。利用者側から発信するタイプでは主にSNSにおいて利用者が体験したことや見たものを共有する。これは利用者同し、さらに存在を知らなかった人へもリーチする可能性を秘めている。

 例として、森美術館で行われた『塩田千春展:魂がふるえる』(2019)がある。大規模なインスタレーションが話題を呼び、SNS上でシェアされ、のべ66万人もの来場者を集めた。森美術館が来館の動機をアンケートでたずねた結果によると、SNSがきっかけになっていた人が54%にのぼり、美術館の公式サイトや各種メディアを大きく上回った。テレビ・ラジオがきっかけと答えたのは4%だった。会場である森美術館の広報はSNSで発信・シェアされる工夫として、投稿しやすい空気を作った。入口に写真撮影とハッシュタグ投稿を促すパネルを設置したり、公式SNSでも撮影OKであることを発信していた。SNSを利用し大成功を納めた展覧会として、マーケティング界からも、美術界からも注目された展覧会である。

 しかしながら、写真のフラッシュによる作品の劣化や、著作権などの関係から撮影自由な展覧会を行うのは現状ではまだ難しいところが多い。この問題の解決策を見出していくことはことは博物館の広報としての一つの役割ではないだろうか。