今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

美術批評 MANGA都市TOKYO

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MANGA都市TOKYO 展覧会場


美術批評 MANGA都市TOKYO

(約1300文字・購読時間1分40秒)

展覧会名・MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020

場所・国立新美術館(東京)

 《MANGA都市TOKYO》は文化庁日本芸術文化振興会国立新美術館が主催し、2018年にフランス・パリで開催され、3万人超が訪れた《MANGA⇔TOKYO》の凱旋企画となる。

 日本では、美術館を知識がある前提で行くものという思考があり、日常から遠ざけているように感じる。施設を訪れるハードルの高さはオーケストラのコンサートや歌舞伎、ミュージカルなども同様の思考が働いていると思われるが、これらは近年、演目でアニメ、ゲームなどが原作のものを頻繁に取り上げており、若い世代を中心に大きな反響を得ている。

 ところが10年ほど前、国立のメディア芸術施設の設立が検討されたが、TVなどのオールドメディアで国営漫画喫茶などと揶揄され、中止に追い込まれたことを覚えているだろうか。現場でもベテランマンガ家が原稿は完成した時点で興味を失い破棄してしまったり、アニメ制作会社もセル画を破棄したり、倉庫に放置したままになったりしている。

 近年、日本文化の象徴たりうるアニメのセル画や、マンガの原画などが海外の競売で高額取引されている。これは由々しき事態である。自分達の文化の素晴らしさを認識していないということになる。江戸時代に浮世絵が大量に刷られ、梱包材として海外に流出しジャポニズムを巻き起こした歴史がまた繰り返されようとしている。このような状況下で、主題としてマンガ、アニメを取り上げる展覧会を行うことは大いに意義があると感じる。自分たちの文化が価値のあるものとして認識することができる。実際、入場者は若者が多くを占めた。

 しかしながら、展示してる内容はかなりお粗末で、作品点数は90超と少なくないものの、各作品ごとにマンガであれば数ページの原稿、アニメであれば、数カットの映像が並べられている。ただそれだけだった。一応、3テーマとして「破壊と復興の反復」「東京の日常」「キャラクター vs. 都市」は掲げてはいるが、分類しただけである。会場のスペースの大半を占めていたのは東京の縮尺模型で、横で流れている映画やアニメの舞台となった場所がその映像ごとにライトアップされる演出が行われていた。好意的に捉えれば流行りの聖地巡礼を促すような演出とも取れるが、あまりにもお粗末である。千数百円の入場料を払ったが、観覧時間はわずか30分ほどであった。他の展覧会であれば同じ入館料で平均2、3時間はかかることを考えると、まったく対価に見合っていない。評価できる点としては静止画に関してだけは写真撮影が許可されていたことである。撮影可能な展覧会はSNS拡散を狙って森美術館が行なっている以外ではほとんどない。

 マンガ、アニメといったサブカルチャー分野の芸術、美術的評価はまだ始まったばかりである。はじめの一歩として、ただ集めただけの展覧会であったとしてもやる意義はあるのかもしれない。しかし今後、さらに継続して、遺していく対象とするのであれば、さらに深い主題や、分析、検証などを伴ったものにしていく必要があるだろう。

 

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