今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

芸術史:日本芸術史の諸問題 パトロンの歴史と現在

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三溪園(神奈川)

パトロンの歴史と現在

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 原三溪(1868-1939)は明治・大正・昭和の前半期にかけて生糸貿易で財を成し日本の実業家である。日本や中国の古美術品を集めるとともに、近代日本美術のコレクターで同時代の新進画家である横山大観らの画家の作品を購入したり、生活費を支給したりして援助したパトロンでもあった。

 ヨーロッパでも芸術が職業として成り立つ以前は,パトロンとしての王侯貴族や有力者の庇護が必要だった。イタリアではメディチ家ボッティチェリレオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロなど多数の芸術家のパトロンとなり、ルネサンスの文化を育てる上で大きな役割を果たした。イギリスではエリザベス朝から18世紀まで,王室や貴族がパトロンとなって詩壇や劇壇の繁栄を維持した。このように従来は巨大な財力を持つ特定のパトロンが芸術家の活動を支援するという形が主だった。18世紀に新興の市民階級の文学ジャンルである小説が興って,文学者たちは自立しはじめ、職業化の道を歩むことになる。 19世紀に入って、ブルジョアと資本主義社会の形態が生まれて、ヨーロッパ文化はパトロネージュ・システムから、より公的な博物館、劇場、多数の聴衆や大量消費による支援システムに移り変わっていった。

 現代ではネットワークの発達により、多くの大衆が小額づつ支援し、作家を支えるという仕組みが多数存在する。作家はSNSなどを通じて支援者(ファン)を募り、支援サイトは支援金から一定利率の手数料をとり、作家へ渡す。そして作家は創作物を支援者へ届けるといった仕組みである。月額制のものがほとんどで、金額は数百円から数千円、人気作家となると数十万人もの支援者を抱える。Fantia、pixiv FANBOX、PATREON、Youtubeメンバーシップといったサービスが存在する。この支援金のみで創作活動を行える作家はごく一部であると思われるが、本業以外での作家自身の自由な創作活動を行うことの助けになることは確かである。収入の柱が一本だけではそれが折れた時に突然収入がなくなってしまう。少額を多数から集めるといった方法はリスク面を考えると有効である。芸術の大衆化が進んでいる現代ならではの活動方法と言えるだろう。

 また、パトロンは作品の収集、保存の観点としても考えられる。10年ほど前、国立のメディア芸術施設の設立が検討されたが、中止に追い込まれた。現在、日本文化の象徴たりうるアニメのセル画や、漫画の原画などが海外の競売で高額取引されている。これは由々しき事態である。そうした中、民間では庵野秀明らが中心となる特定非営利活動法人・アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)を立ち上げたり、KADOKAWAが角川武蔵野ミュージアムを建設したりしてアニメ、マンガ、ライトノベルといった作品の保存を始めている。こうした活動は今後さらに進むことが期待される。

 

参考文献

田中日佐夫『美術品移動史』(日本経済新聞社出版局、1981年)

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