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すべての人が平等に利用できるというユニバーサルミュージアムという考え方がある。すべての人とは、たとえば視覚や聴覚、運動機能などに障がいがある場合だけでなく、年齢や日常的に使用する言語の違いなど、文字どおり博物館を利用するすべての人を対象としている。年齢、性別、障害、身体的能力などの違い、言語等、人が持つそれぞれの違いを超えて、製品、建物、環境を、あらゆるの人が暮らしやすくなることを前提として、はじめから考えてデザインするという概念である、ユニバーサルデザインの考え方を博物館などのミュージアムに当てはめた考え方である。
一般的に博物館というと、展示されているものを見て楽しむイメージがある。通常は貴重な実物資料を展示しているから、劣化や破損を避けるため、見て楽しむ展示となっている。さわれる展示も時折あるが、決して多くない。視覚だけでなく五感を使って資料に接することができたら、さらに感動も大きくなり、理解も深まるだろう。そしてそれは、目や耳が不自由な方が展示を楽しむ選択肢を増やすことにもなる。例えば、さわって形を理解する展示や、音を使って大きさを認識する装置などがその例である。また、拡大することによって視覚による観察を可能にできる場合もある。
触れる展示の例として岡本太郎記念館(東京)がある。岡本太郎は「作品は大衆の物で誰の目にも触れる場所にあるべき」という思想のもと、生前、個人に作品を売ることはほとんどなかった。倉庫や個室のような閉鎖された空間で一部の人の目にしか触れないことを嫌ったからである。現前、自宅件アトリエであった太郎記念館は生前の太郎のアトリエがそのまま残されており、制作途中の絵も置いたままになっている。太郎記念館は作品の写真撮影はもとより、触れることも自由である。庭に《歓喜の鐘》が設置してあり、木槌で叩いて音を鳴らしたり、《座ることを拒否する椅子》に座ることができる。
また、視覚障害者、外国人に対して配慮する必要がある。これにはICTが大きな期待が寄せられている。展示や作品に関する説明はパネルなどの文字情報が基本になるが、それだけでは、説明しきれなかったり、一箇所に人が集中してしまう懸念がある。無論、視覚障害者、外国人では、パネルを読むことができなければ同様である。現在の博物館などでは、そういった場合に備えて、音声ガイドを使っている場合が多い。また、アーティゾン美術館(東京)ではスマートフォンのアプリでガイドを行なっている。美術館自身が自前のアプリを提供しており、ガイド以外にもチケット予約や、館内のマップ、ラーニングプログラムや今後の展示予定などのニュースも提供されている。テキストのみならず、音声も日、英、仏、中、韓と多言語にも対応している充実ぶりで、まさに、近未来の美術館を体現したかのようである。
しかし、大きな資本のない博物館などは自前でアプリを制作するのは費用がかかる上、博物館ごとにアプリが存在すると利用者はいくつものアプリをインストールする必要があり逆に不便になってしまう。そういった対処法として、早稲田システム開発株式会社が開発したポケット学芸員というアプリの利用が見られる。ポケット学芸員は、ミュージアムなどの展示をはじめとするさまざまな情報を案内するアプリである。展示の鑑賞、文化財の見学などの際に対象物につけられている番号を入力すると、テキストや音声、画像や動画で解説や関連情報を得ることができる。得られる情報の種類は館によって異なるが、情報内容は各館に委ねられており、館ごとの差があることは否定できない。今後、さらに、博物館側からも利用者側からも使いやすいシステムの開発が期待される。
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