今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

博物館資料の活用の現状

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(約1700文字・購読時間2分10秒)

 文化財保護法第1条にその目的を「文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もって国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献すること」と規定しており、保存と活用は文化財保護の重要な柱と考えられている。保存と活用を共に尊重し、多くの人の参画を得ながら、文化財の継承と地域の持続的な維持発展を共に目指すことのできる方策を模索し、文化財保護制度をこれからの時代を切り拓くにふさわしいものに改めていくことが必要である。 文化財を公開することによって、文化財への負荷をかけることは避けられない。したがって その負荷の累積値をいかに減らしていくかという努力が保存と活用、保存と公開のバランスをはかることである。

 長い歴史の中で伝えられ、守られてきた文化財としての美術工芸品は,我が国の歴史や文化の理解に欠くことのできない、かけがえのない貴重な遺産である。文化財は、精神的、物質的な豊かさの基盤として地域や国の歴史や文化そのものであるとともに、国際的な交流の中で文化的多様性の理解、対話、協力に貢献しうるものである。一方、社会構造や価値観の変化、過疎化や少子高齢化などが進む中で、これまで文化財を守ることで伝えられてきた伝統的な知と技だけではなく、文化財を国民、社会の宝として、様々な形で共有し、適切に活用することを通じて新しい文化の創造を促進していくことが求められている。文化財の保護、保存、継承とともに、展示などの活用を通じて、国民の文化的向上とあわせて、世界文化の進歩に貢献することを基本的な使命としており、これからもこの使命は変わらないものである。そのために博物館等、保存・調査に関わる関係者、社会・地域、住民の協働や参画、その他のコミュニケーションを図る取組を推進することが重要である。 あわせて、UNESCOにおいて指摘がなされているように、博物館等は、その基本機能を中核とすることを前提とした上で、社会・地域において経済的な役割を担いうることや、収入を生む活動に貢献しうることを認識することが重要である。観光、経済活動に関係して、地域社会や地方の質の高い豊かな生活に貢献するような取組が行われるよう、これまでの文化財に係る保存・継承に関する政策と関連分野とを緊密に連携させながら総合的に推進する必要がある。 文化財は適切に保存されてこそ将来にわたって多くの人々の鑑賞機会の拡大や学術的な研究の進展が得られるなど、様々な活用の可能性が期待されるものである。このようなことを踏まえ、文化財の次世代への継承には、文化財の大切さを多くの人々に伝えていくことが必要不可欠であり、文化財の普及啓発のためにも文化財の適切な活用を推進していくことが必要である。文化財の展示やデジタルアーカイブ化による公開にとどまらず、調査研究の成果や保存修理後の状況等も含め、時代の要請に合わせた文化財の歴史的価値、学術的価値、芸術的価値を社会により広く、魅力あるものとして提示する方法を検討する必要がある。 現在に残された文化財は、先人の不断の努力により守り伝えられてきた貴重な財産であり、これらの文化財を次世代に確実に継承しようとする意思があってこそ文化財を次世代に継承することができることを踏まえ、文化財を大切にする文化の醸成が重要である。 文化財の公開のためには修理が必要不可欠であり、文化財を修理し保存することの重要性を広く周知することが必要である。修理は材料や技法などを含めた文化財の背景にある歴史そのものを調査研究することから始まるものであり、調査研究によって得られた情報がその文化財の価値をさらに高めることを踏まえ、保存を前提としつつ修理を行い、様々な活用を通じて社 に還元されることで理解醸成に繋がり、ひいては保存の基盤となる財源や人材の更なる強化を生むという好循環を作り出すことが重要である。

 

参考文献

『博物館資料保存論』石崎武志 編著(講談社)

『新時代の博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会編(芙蓉書房出版)

新時代の博物館学

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