今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

巫女の口寄せ

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恐山

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 巫女とは神社で神楽や湯立てに奉仕するうちに祭神の憑依によって神託を述べる神社巫女と、口寄せという神仏、生霊、死霊などの憑依をうけ、託宣を行う憑依巫女に大きく分かれる。同じ憑依巫女でも日本各地で名称が違い、東北を中心としたカミサマ、イタコ、沖縄のユタ、ノロなどがいる。東北地方を代表するイタコなどは活発に機能し、地域住民の信仰的要求にこたえている。本来のイタコの仕事は、自分の担当地域を巡り歩き、農作物の予想、住民の健康や運勢を占うなど、地元密着のアドバイスを行う仕事であった。神霊の憑着による託宣を神口、行方不明となった生者の口寄せもする場合は生口と称する。これに対し死霊の場合を死口と区別し、巫法に若干の違いをみせている。

 もっとも広く、また活況を呈するのは死霊の口寄せで、北は青森県から南は沖縄にいたるまで分布する。今日まで残る有名なものはイタコは、日本の北東北で口寄せを行う巫女である。日本3大霊場の一つである恐山は、死者の集まる山と言われており、その寺の境内でイタコが口寄せを行うことでも有名で、親族の死者の言葉を子孫たちに伝えるものとして知られる。東北地方の民間巫女はもっぱら死口を業とするが、死後の期間によって新口寄せと古口寄せの二つに分ける。前者は死後100日までの新ボトケを対象とし、その新ボトケが肉親、縁者、知友に語りかけるという方式で展開する。後者は100日を超えた古ボトケをよび出すが、その際、家の祖先の知るかぎりのホトケが順次に現れ、それとの対話をこころみるしかたとなる。したがって前者がその死の直後、初七日か四十九日までに施行されるのに対し、後者は年忌とか盆・彼岸を期して行われ、それを年忌口・彼岸口などとよぶ。幼児の死、不慮の災害による非業の死者については特別念入りの口寄せを実施する。僧侶の読経だけでは足りず、死者の言葉を聞きたいという思いが、成仏、供養のねらいであった。民俗学・人類学でいうシャーマニズムの一例であり、現世と他界とのコミュニケーションの一形態といえる。

 

参考文献

川村邦光『弔いの文化史』中央公論新社、2015年

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