今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

ゲームと著作権について

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(約1800文字・購読時間2分20秒)

 2019年暮に任天堂が著作物利用ガイドラインを発表し、事実上、個人のゲーム実況動画と収益化を解禁した。近年動画配信サイトの普及により、ゲームのプレイ動画配信が人気を博ている。十年ほど前と現在では取り巻く環境が全く違う。ネットワークの発達により、ゲームを一人でプレイするものから、みんなでプレイする。さらには、上手なプレイをみる、人気プレイヤーを応援するといったプロスポーツの観客のような新しい楽しみ方が生まれている。一方、開発者側は、自分の作ったゲームは多くの人に知って、楽しんでもらいたいと思う。有名実況者にプレイしてもらえれば多くの人にゲームの楽しさが広まってくれるという感謝の気持ちがある。しかし、ゲームの映像や音楽は著作権があり、ネットで流れてしまうことは問題でもあるし、ネタバレにもつながり、逆に売り上げが下がってしまうのではないかという心配もある。これについては間違いなく開発側も一枚岩ではないので、感情論と法律の違いをはっきりさせておきたい。

 前提として、ゲームは著作権法では「映画の著作物」として扱われる。ゲーム実況は映画の違法アップロードと同様にゲームの内容そのものを送信するため、いわゆるネタばれに繋がり、ゲーム実況を見てしまったことで満足し、視聴者が実際にゲームを購入しないという状況が起こり得てしまう。一方で「ゲーム実況によって、ゲームの認知度が高まり宣伝効果が出ているのだから、多めに見るべき」との意見もある。

 著作権法の第21条に「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する(公衆送信権等)」とあり、ゲームの内容を複製して良いのは原則としてゲームを作った著作者(ゲームパブリッシャー)のみとなる。また、著作権法の第23条1項に「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する」とあるように、公衆への送信も原則として著作者のみに認められている。この公衆送信とは、映画の場合の劇場公開や「映画の著作物」であるゲーム動画のネット公開に該当する。つまり、ゲームの動画をネットで公開して良いのは著作者(ゲームパブリッシャー)のみ、ということになり、ゲームを購入したユーザーにはその権利がないことになる。しかしながら、ゲーム実況が人気を博し、その宣伝効果が無視できなくなりつつある昨今、ゲームメーカーによっては、ゲーム実況動画の投稿を許可しているケースも少なくない。

 有名パブリッシャーであるほど、多くの資金と時間を投入して開発をしたゲームがあっさりネットでネタバレされるのは面白くないと考える傾向にあるようだ。しかしながら、ゲーム実況が人気を博し、その宣伝効果が無視できなくなりつつある昨今、会社によっては、ゲーム実況動画の投稿を許可しているケースも少なくない。任天堂以外では、PS4にはシェア機能が搭載されており、ゲーム実況動画の投稿が認められているソフトに関しては、コントローラーのシェアボタンを押すことでYouTubeなどの動画投稿サイトでライブ配信を行うことが可能となっている。スマートフォンのゲームアプリは、ミクシィの『モンスターストライク』をはじめ、ゲーム内からゲーム実況が可能なタイトルも多い。こうした超大手のガイドラインが指針となって中小以下のゲーム会社も似たような形に落ち着いていくだろう。

 知人のゲームクリエイターが開発に携わったいたゲームはとてもではないが、有名なゲームとはいえないので、とにかく知名度が低い。しかし、プレイさえしてもらえれば、面白さは保証するという。やはりタダでも有名実況者にプレイしてもらい、多くの人に知ってもらいたいという気持ちが強い。ネタバレ上等、お金を払ってでもプレイしてみたい、楽しみたいと思ってもらえるようなゲーム作りをしているつもりであるとのこと。しかしながら、やはりユーザーも好きなゲームで問題を起こしたくないと考えるのか、リテラシーが高い人もおり、ネットでの利用に関して律儀に聞いてくることがままあるそうだ。会社としてははじめのうちは感知しないといった対応だったが、最近ではガイドラインを設けて、出来るだけユーザーの気持ちに沿ったかたちで寛容な対応をしているという。将来的には全員が得するようなフォーマットができればいいと切に願う。



参考文献・URL

『すごいぞ!はたらく知財 14歳からの知的財産入門』(2019年、晶文社

www.amazon.co.jp

 

知的財産権制度入門(2019年)」特許庁Webサイト

https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/2019_syosinsya.html

 

Japanese Law Translation

著作権法

http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?id=3379&vm=01&re=

 

電子政府の総合窓口

著作権法

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048