今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

ゲームクリエイティブについて考える1 全3部

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第1部 イラストレーター、アートディレクター育成講座

(約7300文字・購読時間9分)
○アートディレクター(AD)の立ち位置

M.I(モデレーター)

自己紹介をお願い致します。

A.M

自分(アートハウスのAD、下請け)と、G.T(ゲーム会社のAD)の両者で制作物をやり取りし、出来たらアプリに組み込んでいく。制作物というのはアプリの中で使われる商品であったり、世界観を担ったりする重要なもの。アプリの先には世界各地の何万人ものお客様が楽しんでいらっしゃる。格好いい、このゲームをもっとやってみたいと思って下さる価値を生み出す制作物を作っている。

評判が良ければ、アートハウスに継続依頼が来て、社内外のクリエイターに対して制作依頼をかけられる。それにより、クリエイターはアートハウスに対して信頼が生まれる。こういった制作物を中心とした大きな流れがある。ADは制作物をやりとりしているという間柄だけではなく、クリエイターさんの生活や、アプリで遊んでくださっているお客様の面白さ、楽しさを背負っている、そういうスタンスで日々仕事をしている。制作の流れの中心にいるという自覚を持ち仕事をしている。

M.H(パブリッシャーのAD)

まわりの人間は普段何を考え、どういう姿勢で仕事に臨んでいるのかというのを知るのは自らが業務を進める上で非常に有益です。本来、こういったことは新人研修などで周知すべきですが、OJTを行う会社がおおく誰もが意識しているとは言えません。とはいえ、私自身も研修など受けたこともなく、普通に仕事をしていれば自然とたどり着く基本的なことだと思っていますが、若いうちから早めに知っておくにこしたことはないです。

ただ上から降ってきた業務を言われたとおりにやっているだけで仕事をした気になっている様な人はいないと思いたいですが、末端の作業者でもコンテンツのクオリティの責任の一端を担っているという意識は新人のうちは生まれにくいです。まして、その先にいるお客様にお金を払って頂いて自らの給与になり、明日食べるいくばくかの米とパンになるという思考にまで至れるでしょうか。実際に責任を負うのはアートディレクターですが、立場に関わらず、関係者一人一人が、当事者意識を持つことが重要だと思います。

 

○クリエイター受け、クライアント受けの良い指示出しディレクションとは

A.M

クライアントというのは、アプリや、遊んでくださっているお客様を背負って立っているので、そこを裏切らない。たとえば、納期や、求めている世界観やクオリティを守っているかというのが大前提。クライアントの言う事がお客様(ユーザー)に受けなさそうであれば口を出させていただく。それは、単なる下請けではなく、ビジネスパートナーになりたいから。自分たちの制作物がお客様の目に留まって売り上げにつながるというところを自分たち自身も担い、責任を負っている、運命共同体だと思っているので、口を出させていただく。例えば、提出してからのチェック期間が長いと納期に間に合わなくなるので、短くならないか聞いてみたり、クライアントが新しい会社だとすると、慣れていないので、まちまちだったり、遠回りをしてしまったりすることがあるので、やり方から提案して変える場合がある。大きな制作の流れを断ち切ってしまうと、待っているお客様の楽しみが損なわれたり、クリエイターはギャラがもらえなくなったりしてしまうので、そうならないように重きを置いている。

G.T

アートに携わる人間が、時に下請けの様に思われてしまうことがある。アートハウス、社内アーティストに限らず、一つのチームとして動く方が一人一人の発揮できるパフォーマンスが上がる。

M.H

社内のデザイナーが同時期に一人が複数のコンテンツに関わるという体制は、そのコンテンツに対する思いや、責任が生まれにくいと思います。どちらか一方に肩入れしたり、両方とも中途半端になりやすいのです。予算やスケジュール、リソース配分の都合もあるでしょうが、それをやって成功しているコンテンツを見たことがありません。また、同じ社員同士で「発注」という言葉を使う人がいますが、これは都度都度やめてもらうように言っています。同じチームにいながら、疎外感がものすごく、言われたことだけやりました、納品しました、ハイ終わりという思考に無意識のうちに陥ります。基本的には一人が関わるのは一コンテンツというのが理想です。

また、依頼時にどんどんアイデアを出してくれるように言っていても出てくることは稀です。言われた通りにやればすぐに終わって楽でしょうが、それではいつまでたってもオペレーターどまりになってしまいます。本当にアイデアがないのか、そうではないと否定されるのが怖いのでしょうか。初めは10のアイデアのうち9否定されても、少しずつ肯定の比率を上げて行けるようにすれば、その過程の蓄積は必ず力になり、何れは信頼され多くを任せられるようになります。とはいえ若手や新人にいきなりそれを要求するのは酷なので成長の度合いによって要求を上げていくようにしています。たとえば、デッサン狂いがあった場合、赤線を入れてしまうと受け取った側にとってはそれが正解となり、思考停止になり、向上心が生まれません。デッサンが狂っていることを伝えて、何が正解なのかを描く側が試行錯誤して辿り着くようにし、成長を促します。描く側が成長すればクオリティも上がり、チェックの時間も短かくなるので、お互いにWin-Winの関係になります。これをやらないと、チェックする側は毎回ラフに赤線を入れることになり、いつまで経っても仕事が減らず、描く側も成長しないので誰も得しません。

外注イラストレーターに関してはこちらの意図をくみ取って、なお且つ良い感じにアレンジやアイデアを出しくれてる方を選定し、依頼しているので、こういった心配は非常に少ないです。そもそもフリーのイラストレーターの道を自ら選んだのだから誰に言われるまでもなく、自身で成長していかなければ生きて行けません。互いに意見を出し合って、さらに良いコンテンツにしようという意識を常に全員が持つことが重要だと思います。

 

M.I

提出されて来たイラストが、思っていたのと違う場合はどうするか。

G.T

自分ではない企画などが発注資料などを作った場合は事前に先回りして確認する。不必要な項目はそぎ落とし、絶対に守って欲しい部分を強調して伝え、あらかじめ齟齬がないようにしている。

M.H

初めのころは資料の完成度も低かったり、得意分野が分からずキャラの割り当てを失敗することもありましたが、改善を繰り返し、現在ではラフチェックで直すところはほぼないところまで来ています。今では仕様も資料も自分たちで作っており、その内容と誰が描くかで8割方完成イメージが見えているので、思っていたのと違うということはほとんど無くなりました。イラストレーターがどんな絵を得意としているのか把握し、さらに何度も依頼し、長い付き合いをしてくうちに互いの理解が深まり、仕事がスムーズに進むようになります。相手を知り、どういう資料を作ればどういった絵が上がってくるか理解したうえで、個別に資料の書き方や内容、密度を変えています。 

M.I

クライアントの指示をクリエイターに伝える際にどうやるか。

A.M

指示内容を勝手に変えない。気持ちよく仕事をしてほしいので、縛りをあまり付けない。なぜあなた(クリエイター)が選ばれたのかなども伝えて、やる気になって頂く。

活字でのやり取りがほとんどなので、ただ直してと言うだけではやる気が出ない。語尾に気を使ったり、「!」や「♪」で気持ちを伝える。感情の入った自分の言葉のフィードバックをする。納得のいく回答をクライアントからもらってからクリエイターに伝える。クライアント希望に応えられるところに重きを置いている。

M.H

自分達で開発をしながら直接個人のイラストレーターに依頼しているので伝言ゲームが起きることはありません。やり取りはメールになるので、資料は画像とテキストの両方をつかい、分かりやすくしています。例えば、説明文の語尾一つとっても受けとり方が違うので、発注のたびに前回の反省を踏まえて資料をアップデートします。良いイラストが上がってきた時は何がどうして良いのか、社内で評判、ユーザーの声などバリエーションを使い褒めます。修正があるときは、なぜそうしてほしいのか必ず理由を書き、これがダメという言い方ではなく、こうするともっと良くなるなど、プラス思考で伝え、やる気をなくさせない言い方になるよう努めています。修正は誰でも嫌なものなので、できるだけ最小限の努力で最大限の効果が出るような修正内容にします。また、巻き戻りは絶対に起きないようにしています。これらは元々自分がデザイン業務をしていて、作業の工程を理解しているからこそできることです。

 

M.I

クリエイターとの共通認識を持つには。

G.T

工夫のしどころはアートハウスと同じ。コミュニケーションをして一人一人を個人として認識する。得意なものが違うので、誰に何をお願いしたらいいのかを知るために、趣味の話をしたり、顔を突き合わせるところからやる。

M.H

フリーのイラストレーターとのやり取りは基本メールになってしまうので、相手の一言一句も見逃さず、些細なことでも一人ひとりとのやり取りから感じたこと、気付いたことをメモをしてまとめたり、Twitterでの発言や他の仕事を調べたりして、相手の人と成りを理解することに努めています。何人かのイラストレーターとは直接お会いしたり、電話でお話をする機会がありましたが、やはり直接言葉で話すと、より一層互いの理解が深まるので、東京近郊で仕事をされている方とは一度はお会いしておくべきだと思います。

 

M.I

チームビルディングをする際には。

G.T

長く続いている会社や、チームはまとまった個性のこともあるし、作られたばかりの場合はでこぼこしている場合もある。状況によりディレクションをかえる。

M.H

声をかける時点でゲームのコンセプトの範囲内の絵を描く人しか選びません。普段描かないモチーフやタッチを無理に描かせると救いようのない絵になる可能性が高いため、絶対に避けるべきです。美少女、イケメン、モンスターなど、それぞれの得意分野を持つ人に加えて、なんでも無難にこなすオールマイティな人も確保しています。

 

○「クオリティにこだわる」と「自分本意のクオリティ管理」の違い

M.I

クオリティにこだわる際のクリエイターの自由度は。

A.M

仕様の範囲内であれば、まずは自由にやってもらう。その後調整。ここがADの腕の見せ所。慣れて人であればアイデアや数パターンを出してくれる人もいる。
G.T

権限がある場合は、指示と違うことを許容することもある。

部分的にクオリティが高くてもスケジュールが押して組み込みの段階で、演出などやりたいことが出来なくなると意味がない。時間配分や、何処にコストを裂くかをその後の担当者と相談しながら臨機応変に進める。

M.H

日ごろ描いているイラストレーター自身の絵で描いてもらっているので、自分のペースで描けるうえ、レベルアップも早いです。自己流で創意工夫ができるので、ブラッシュアップで差がつきます。コンセプトはユーザーの好みと市場のトレンド、新規開拓の三本柱でやっており、必要なことはすべて資料に描いてあるので、その範囲内であれば、おおいに個性を発揮してもらっています。また、絵を描くことに集中してほしいので、こちらで見積書など事務書類のひな形を用意したり、余計な手間をかけさせないようにしています。イラストレーターの個性は売りの一つで、もともと許容範囲は広く、一目で誰が描いたか分かる、その人らしい絵こそが望むところです。

 

M.I

IP(版権)物のクオリティに関して。

G.T

関わっている人が原作を知らないということはあってはならない。知らない人には仕事を振らない。最初から好きなら一番良いが、逆に好き過ぎてもおかしくなることがある。やむを得ない場合にはクリエイターにもしっかり予習してもらう。

M.H

自分たちで新規の立ち上げをしているので、他社のIPものはほとんどかかわった経験がありませんが、進撃コラボをした際には元々アニメ放送は全て見ていましたし、原作も読んだので、相当役に立ったと思います。今後そういった機会があれば参考にしたいです。

 

○アートディレクターに求められること

G.T

アートチームでは統率者であるが、翻訳者というのが一番適切。発注者とアートハウスや外部クリエイターと繋ぐことになってくるので、発注者の意図がうまく伝える。そこがうまく伝わらないと何を言っているのか分からない。自分本位の翻訳にならないよう、広く平等に両方の立場に立って見れることが大事。

A.M

クリエイターの健康を気遣う。徹夜禁止。徹夜をして良い仕事ができるわけがない。冷静な判断ができないと、結果、そのとばっちりを受けるのはADであり、クリエイターになる。仕事の量が先月多かったから今月は少なめになど、調整したりする。

関わっている案件以外にも引き出しを増やすようクリエイターに促す。

M.H

今回はたまたま外注管理の話が大半を占めましたが、ADの用語の解説には主に視覚的表現手段を計画し、総括、監督する職務とあり、本来の仕事は多岐にわたります。当然現在運営しているコンテンツでも同様で、立ち上げ時から関わり、目に見えるものはすべて私が考えたか、作ったか、チェックしています。幸いにも私自身がジャンルを問わず仕事をしてきたので、経験からカバーできていますが、自分の知らない分野でもきちんと見て、ターゲットやゲーム性、コンセプトなどと照らし合わせて判断ができる、一貫したこだわりを持つことが重要なのではないでしょうか。また、関わる人も内外に多く存在し、特に外部のイラストレーターは直接顔を合わせる機会はほとんど無いため、一層気を使います。長い付き合いをしたいし、キャリアアップもしてほしいと思っています。一時的な付き合いだからと、強引なスケジュールで依頼したり、やギャラをケチってもお互いが不幸になるだけですし、業界は狭いので、悪い噂はすぐに広まります。お客さまもに対しても射幸心を煽って一時的な売上をあげても長い目で見れば、コンテンツの寿命を縮め、会社の評判を落とすことになります。お客様が喜んでお金を払いたくなるコンテンツであることをテーマにしており、 開発もユーザーも関係者全員が幸せになるためには、コンテンツと人を包括的にまんべんなく、平等に見ることができる力が必要だと思います。

 

M.I

外部クリエイターの時間管理はどうしているか。

A.M

納期に間に合わせて上げてくれれば、何時間かけたかは気にしない。ただ、夜遅くに上げてくれたら「遅くにありがとうございますとか」気を使えば、信頼関係が生まれる。

M.H

こちらも納期に間に合えば、途中のラフチェックの提出時期は全く指定しません。また、外注の場合はかける時間も、時間配分は完全にお任せしています。納品までのスケジュールは元々余裕をとり、半年前から声をかけています。それでも納期に間に合わなくなってしまうことがありますが、その際にはクオリティ優先で納期は過ぎても構わないと伝えます。納期に間に合わせるために徹夜して無理やり終わらせたものの、クオリティが低くては本末転倒になってしまいます。また、イラストレーターの作業時間を奪いたくないので、チェックバックは即日又は翌営業日に行っています。

 

M.I

発注内容の伝わる、伝わらないのレベルはどう身につけるか。

G.T

経験によるところが多い。失敗を繰り返し、頭を下げながら身につけていく。天狗になってはならない。自分が描かない場合は、どういった意図でクリエイターが描いているかわからない。見ているところが違う場合がある。いろんな立ち位置でやれば、いろんなことが見えてくる。多くの人に接して、周りを見ながら動かして行く。

M.H

以前、プロジェクト序盤にこちらの修正意図が伝わらず、メインイラストレーターの一人の機嫌を損なわせ、離脱するという大失態を犯してしまったことがありました。私自身が以前クライアントのいる仕事をしていた時の経験から、起こりそうな問題を先に潰すつもりでやっていましたが、逆効果になってしまったのです。イラストレーターは自分の世界を描きたい芸術肌の人もいれば、ゲーム会社勤務の経験があり、修正もドンとこいの人もいることを知るようになり、その後は対応のやり方を大幅に変え、個別の対応を促進し、常に改善を繰り返すことで、同じような失態は起きていません。イラストレーター一人ひとりがオンリーワンで代えが効かないという気持ちで対応しています。常に謙虚で冷静に、実るほど頭を垂れる稲穂かな、の精神でいます。

 

M.I

これからADとしてスキルを上げて行きたいこと、仕事をして行きたいなどの思いは。

G.T

もともとプレイヤー(現場のクリエイター)としてやっていたので、今後もチームで自分の秀でている所、描くことや、作ることを伸ばして行きたい。

A.M

10年後の後輩たちが幸せになれるよう、自分のノウハウをすべて渡す。

M.H

まわりにADという人間がおらず、完全に自己流でやってきましたが、人の仕事のやり方や考え方を聞いて、驚くほど似ていました。というか、仕事の幅をどんどん広げていったら、気付くとAD的なことをしていたと言った方が良いかもしれません。最近はテレビなどADの仕事を取り上げられることもありますが、当たり前のことを当たり前にやっている印象で自分と大差ありません。この程度のことは誰もが自分で気づくことなのだろうと思い、周囲に対し特に何もしてきませんでしたが、きちんと後身に伝えているという話を聞くと、やはり自分もやっていった方が良いのかという感じはしています。

 

続き 第2部 個別公演 →

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