今日の芸術 2022

art curator 岡本かのんのブログ

博物館資料の保存の現状

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(約1700文字・購読時間2分10秒)

博物館資料の保存の現状

 博物館法の第4条では「学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」とされており、ミュージアムに収蔵された資料、つまり文化財の保存も学芸員の本来的な仕事とされている。文化財を良好な状態で保存していくための基本的な考え方としては、収蔵庫や展示室の温湿度を通年で一定に保つ、光に敏感な資料にあたる照明光量を調整する、資料を変色させる化学物質を展示室や収蔵庫から除去する、傷める虫やカビを施設に侵入・発生させないなどである。

 収蔵品を長期的に良好な状態で保存するには、温度・湿度・光度を一定の状態におき、酸化の進行を遅らせる方策を講じておく必要がある。このような条件を満たすには、条件整備が施されている収蔵庫に安置することが最善である。展示の際には収蔵庫の保存環境をできるかぎり実現しなければならない。つまり、明るい光量の下に収蔵品をさらす場合も赤外線や紫外線の量を最小限とし、来館者の多少によって変化しやすい温度や湿度の変化をできるだけ小さくすることである。このような収蔵庫と展示スペースの良好な環境が維持されてはじめて収蔵品は長期的保存が可能となる。 虫やカビのような生物にも注意をめぐらす必要がある。対処法として総合的に有害生物を管理するという文化財IPMの考え方が広く知られるようになった。この手法によって燻蒸処理が主流だった文化財保存から、薬剤だけに頼らず複数の手段を組み合わせて虫やカビ等の生物被害を防除する時代へ変化している。IPMとは、日本語で総合的有害生物管理と訳す。有害生物が潜む環境状況に配慮しながら、生態的、生物的、物理的、化学的な手法を効果的に組み合わせる維持管理することが基本となる。

 一方で専門家がまとめて管理することのリスクも存在する。二つの事例をあげる。

1.川崎市市民ミュージアム水没

2019年10月、台風19号の影響で、川崎市中原区川崎市市民ミュージアムの収蔵庫が浸水した。同館は1988年に開館し、三階建てで、地下も含めた延べ床面積は約2万平方メートルとなっており、収蔵庫は温度や湿度が管理しやすいことから地下に設けられた。収蔵庫には九つの収蔵室があり、すべてが浸水していた。収蔵品は絵画や浮世絵、古文書、民具、写真、漫画雑誌、映画のフィルムなど約26万点あり、大雨や逆流した下水などが、収蔵庫のある地下に流れ込み、水に漬かったものも確認された。神奈川県と市の文化財計24点のほか、戦前の漫画本や、19世紀末のロートレックのポスターなどがある。過去にも大雨で駐車場エリアに水がたまることがあり、そのたびに排水ポンプで地上部分に水をくみ上げていた。ミュージアムのある等々力緑地は、かつて池が多数存在していた土地であり、水が出やすく、1988年の開館時から地下搬入口に通じる駐車場エリアに排水ポンプが設けられている。2004年に策定されたハザードマップで3~5メートルの浸水深と想定されていながら、これまで明確な浸水対策を取っていなかった。

2.ブラジル国立博物館焼失

2018年9月、リオデジャネイロブラジル国立博物館で起きた火災により、ブラジルの重要な科学的、文化的遺産が焼失した。1818年に設立されたこの博物館は、ブラジル最古の科学機関で南米でも最大級の施設である。科学的、文化的に貴重な収蔵品には、南米最古の人類化石とされる1万1500年前の女性の頭蓋骨ルチアや、ブラジル固有の恐竜マシャカリサウルスの骨格などが含まれている。南米でもっとも古いエジプトのミイラや工芸品などのコレクションも収蔵されていた。しかし、化石、エジプトのコレクション、無脊椎動物の標本など、博物館の本館に収められていた多くの品々は焼失したものとみられる。2000万点の品が収蔵されていたが、その90%以上が焼失した。

 このように、一箇所に文化財を集めると、何らかの事故などが起きた際に甚大な被害を受けてしまうというリスクも存在する。



参考文献

『博物館資料保存論』石崎武志 編著(講談社)

 

 

『新時代の博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会編(芙蓉書房出版)

 

新時代の博物館学

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博物館資料の活用の現状

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(約1700文字・購読時間2分10秒)

 文化財保護法第1条にその目的を「文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もって国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献すること」と規定しており、保存と活用は文化財保護の重要な柱と考えられている。保存と活用を共に尊重し、多くの人の参画を得ながら、文化財の継承と地域の持続的な維持発展を共に目指すことのできる方策を模索し、文化財保護制度をこれからの時代を切り拓くにふさわしいものに改めていくことが必要である。 文化財を公開することによって、文化財への負荷をかけることは避けられない。したがって その負荷の累積値をいかに減らしていくかという努力が保存と活用、保存と公開のバランスをはかることである。

 長い歴史の中で伝えられ、守られてきた文化財としての美術工芸品は,我が国の歴史や文化の理解に欠くことのできない、かけがえのない貴重な遺産である。文化財は、精神的、物質的な豊かさの基盤として地域や国の歴史や文化そのものであるとともに、国際的な交流の中で文化的多様性の理解、対話、協力に貢献しうるものである。一方、社会構造や価値観の変化、過疎化や少子高齢化などが進む中で、これまで文化財を守ることで伝えられてきた伝統的な知と技だけではなく、文化財を国民、社会の宝として、様々な形で共有し、適切に活用することを通じて新しい文化の創造を促進していくことが求められている。文化財の保護、保存、継承とともに、展示などの活用を通じて、国民の文化的向上とあわせて、世界文化の進歩に貢献することを基本的な使命としており、これからもこの使命は変わらないものである。そのために博物館等、保存・調査に関わる関係者、社会・地域、住民の協働や参画、その他のコミュニケーションを図る取組を推進することが重要である。 あわせて、UNESCOにおいて指摘がなされているように、博物館等は、その基本機能を中核とすることを前提とした上で、社会・地域において経済的な役割を担いうることや、収入を生む活動に貢献しうることを認識することが重要である。観光、経済活動に関係して、地域社会や地方の質の高い豊かな生活に貢献するような取組が行われるよう、これまでの文化財に係る保存・継承に関する政策と関連分野とを緊密に連携させながら総合的に推進する必要がある。 文化財は適切に保存されてこそ将来にわたって多くの人々の鑑賞機会の拡大や学術的な研究の進展が得られるなど、様々な活用の可能性が期待されるものである。このようなことを踏まえ、文化財の次世代への継承には、文化財の大切さを多くの人々に伝えていくことが必要不可欠であり、文化財の普及啓発のためにも文化財の適切な活用を推進していくことが必要である。文化財の展示やデジタルアーカイブ化による公開にとどまらず、調査研究の成果や保存修理後の状況等も含め、時代の要請に合わせた文化財の歴史的価値、学術的価値、芸術的価値を社会により広く、魅力あるものとして提示する方法を検討する必要がある。 現在に残された文化財は、先人の不断の努力により守り伝えられてきた貴重な財産であり、これらの文化財を次世代に確実に継承しようとする意思があってこそ文化財を次世代に継承することができることを踏まえ、文化財を大切にする文化の醸成が重要である。 文化財の公開のためには修理が必要不可欠であり、文化財を修理し保存することの重要性を広く周知することが必要である。修理は材料や技法などを含めた文化財の背景にある歴史そのものを調査研究することから始まるものであり、調査研究によって得られた情報がその文化財の価値をさらに高めることを踏まえ、保存を前提としつつ修理を行い、様々な活用を通じて社 に還元されることで理解醸成に繋がり、ひいては保存の基盤となる財源や人材の更なる強化を生むという好循環を作り出すことが重要である。

 

参考文献

『博物館資料保存論』石崎武志 編著(講談社)

『新時代の博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会編(芙蓉書房出版)

新時代の博物館学

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日本の博物館における広報活動について現況と展望

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(約1400文字・購読時間1分50秒)

 今日の美術館の経営において、マーケティングを含めた広報の役割は日に日に増していっているといっていいだろう。いくら素晴らしい展示をしたり、貴重な資料の展示を行なっていても、それが利用者に伝わらなければ意味がない。時代の移り変わりにより、様々なメディアが生まれてきたが、それらを有効活用するべきだと考える。

 公立の博物館、美術館は多くが公費によって賄われているが、入場者数、利用者数はその施設の価値を表す指標として大きな意味を持つ。予算の獲得、さらに自ら運営費を賄えるよう収入を得るために多くの人への広報活動を行い、認知してもらうことは博物館運営において重要なこととなる。

 具体的には、情報誌等の図書の刊行・頒布を行い、各種情報や行事の発信に努める。美術館の活動や学芸員による展覧会の見所やスケジュール等を掲載し、多くの人々に広く周知、興味や親しみを抱けるようにする。ポスター・チラシなどの印刷媒体については、展覧会開催ごとに目を止める人の多い鉄道駅や社会教育施設への設置を重点的に行い、媒体の特質と情報へのニーズを結びつける広報を展開していく。ネットメディアでは、広報活動を支援し、情報発信機能を高めるため、ホームページを開設する。年間展示予定、展覧会情報、データベース等を掲載するなど、年間を通した利用促進を図る。また、SNS等を活用し、展覧会や各種イベント等の情報をリアルタイムに提供する。他にGoogle Arts & Cultureなどへの作品画像の提供により、優れたコレクションを広くアピールしていくなどが考えられる。

 中でも近年影響力が増しているのはネットメディアの活用である。方法としては二種類があり、博物館側から発信するタイプと、利用者側から発信するタイプである。博物館側から発信するタイプでは自前のホームページやSNSアカウント開設、データベースを文化遺産オンラインやGoogle Arts & Cultureなどに登録するという施策がすでに多くの施設で行われている。利用者側から発信するタイプでは主にSNSにおいて利用者が体験したことや見たものを共有する。これは利用者同し、さらに存在を知らなかった人へもリーチする可能性を秘めている。

 例として、森美術館で行われた『塩田千春展:魂がふるえる』(2019)がある。大規模なインスタレーションが話題を呼び、SNS上でシェアされ、のべ66万人もの来場者を集めた。森美術館が来館の動機をアンケートでたずねた結果によると、SNSがきっかけになっていた人が54%にのぼり、美術館の公式サイトや各種メディアを大きく上回った。テレビ・ラジオがきっかけと答えたのは4%だった。会場である森美術館の広報はSNSで発信・シェアされる工夫として、投稿しやすい空気を作った。入口に写真撮影とハッシュタグ投稿を促すパネルを設置したり、公式SNSでも撮影OKであることを発信していた。SNSを利用し大成功を納めた展覧会として、マーケティング界からも、美術界からも注目された展覧会である。

 しかしながら、写真のフラッシュによる作品の劣化や、著作権などの関係から撮影自由な展覧会を行うのは現状ではまだ難しいところが多い。この問題の解決策を見出していくことはことは博物館の広報としての一つの役割ではないだろうか。

 

 

『歌川国芳 浮世絵美術館』建設予定案について

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歌川国芳源頼光公館土蜘作妖怪図》
(約4000文字・購読時間5分00秒)

地域の特長

 東京都区部は東京都の東部に23区からなる地域である。区部の中心部には都市機能が集積しており都心と呼ばれる。東京都の人口はおよそ1350万人で、周辺県にはベッドタウンが点在する。一極集中が加速するに連れて、他の大都市から東京都区部に本社を移転し、東京都区部に労働力が集中するようになった。渋谷区や港区にはIT企業が集中するようになり、新産業として若い労働力を吸収するようになる一方、情報通信インフラの整備に伴い、本社機能を東京に置く必要がないとして移転する企業も見られている。直近のコロナ禍により、在宅ワークを推進する企業も出てきており、会社に通勤しなくてすむ状況も生まれつつある。これは、人口の減少が加速する可能性につながる。消滅可能性都市として豊島区が顕著であるとした。東京都教育員会の推計結果によると、公立小学校の児童数は、2024年度まで増加傾向にあり、その後、減少に転じると予測されている。

 既設の美術館は、公設では上野に東京都美術館国立西洋美術館、六本木に国立新美術館など国を代表する美術館、私設では森美術館、アーティゾン美術館など、日本でも指折りの著名な美術館がある。また、地元に根付いた作家を取り上げた、すみだ北斎美術館や、廃校を再利用した3331 Arts Chiyoda、東京おもちゃ美術館といった、一風変わった施設もある。

 

(1)名称

 歌川国芳 浮世絵美術館

 

(2)立地

 歌川国芳の生誕の地であり、代表作である《木曽街道六十九次之内》の舞台となった中山道の起点である東京都中央区

 

(3)設置者

指定管理者制度により東京都中央区が選出した法人

 

(4)施設

 近年、人口の減少により小中学校の廃校が増え、再利用の方法が検討されている。その廃校舎を再利用する。もともと教育の場であったため、立地的にも生涯教育の場としての美術館への転換は地元の理解も得やすく、適していると考える。学校は地域にとって象徴的な意味合いを持つ場合が多いため、すでに廃校になった校舎を美術館へ再利用する試みが各地でなされている。例として、3331 Arts Chiyodaや、東京おもちゃ美術館がある。建物自体の堅牢性や、バリアフリーなども最小限の投資で済むうえ、保管室、展示室、その他集会所、調査研究室、事務等のバックヤードなど、美術館で必要な施設、設備は学校施設を流用できる部分が多い。

 

(5)コレクションの内容

 中山道の宿場町を舞台にした《木曽街道六十九次之内》を始めとした歌川国芳(1798-1861)の作品、また、同時代の浮世絵を中心として収集する。

 水滸伝に登場するヒーローを一図ずつ武者絵として描いた《通俗水滸伝豪傑百八人之一人》のシリーズで一躍、脚光を浴びた。その後の作品は役者絵、武者絵、美人画、名所絵から戯画、春画までさまざまなジャンルにわたっているが、中でも歴史・伝説・物語などに題材を採り、大判錦絵を3枚つづりの大画面のワイドスクリーンのようにとらえ巨大な鯨や骸骨、化け物などが跳梁するダイナミックな作品も特徴である。また、無類の猫好きとしても知られ、猫を擬人化した作品も多く《朧月猫草帋》などがある。狸・雀・蛸などの身近な動物を擬人化して江戸の庶民の生活を描写した作品も豊富で寄せ絵や、自宅で絵を描く自身の顔の前を、絵の中の動物や人物が横切り、自身の顔を隠している自画像のような遊び心のある作品も国芳の得意としたもので、これらを対象に収集する。他に、同時代の喜多川歌麿写楽歌川広重なども収集する。

 

(6)年間事業計画の概略

 江戸時代の浮世絵を中心に収集、研究、展示につとめながら、子供向けの教育、生涯学習に関する講座を開催する。

 

1.資料の収集、保管事業・貸出等事業

 江戸、東京の歴史と文化に関する資料の情報収集に努め、収集方針にもとづき着実に資料の収集、保管を行う。特に、歌川国芳と同時代の浮世絵を重視する。さらに、大衆文化その他これに関する研究資料、文献等を収集・整理し、浮世絵の研究拠点として充実を図る。収集した作品は、調査を実施し、整理・分類・登録した後、収蔵庫内に最適な環境で保存する。また、作品をデータベース登録し、デジタル化や公開も進め、外部利用者へのサービス等に積極的に活用する。

2.展示事業

 常設展示を活用し、計画的に展示更新を行うとともに、館蔵品や寄託品等の作品をより広く市民の方々に展示することに努める。これらの展示事業を通じて、市民の文化や情操・教養の向上を目指す。収蔵品や最新の埋蔵文化財の調査結果にもとづき、地域やジャンル、速報性などを考慮し、東京の歴史と文化に関わるテーマで企画展示を開催し、リピーターの増加・ 定着を図る。

3.調査・研究事業 

 博物館全体で取り組むプロジェクト調査、学芸員の個別テーマによる研究、館外研究者との共同調査研究を行うほか、市民参加による調査活動もおこなう。その成果を展示・講演会・シンポジウムなどを開催し研究発表することにより都民へ還元する。また、研究の内容を充実したものとするため、科学研究費補助金をはじめとする各種の学術研究補助金など外部資金の獲得にも努める。 

4.教育・普及事業 

 子供向けの体験教室、入門的な体験型イベントなどを実施し、都民や子供たちにわかりやすく、かつ、水準の高い東京の歴史・文化を学ぶことのできる機会を提供し、 地域で育まれた伝統文化に触れる機会を提供する。自分たちが住んでいる身近な地域を知ることにより、子どもたちが地域社会の一員としての自覚をもち、 地域社会に対する誇りと愛情を育てることができるように郷土学習の機会を提供する。

 博学連携は、学校からの要望の把握に努め、事業の充実と質の向上を目指していく。学芸員を講師として学校へ派遣する出張授業や博物館資料の教材としての貸し出しなどを通じて授業に協力する。

 また、生涯学習の普及を目的として、シニア世代の都民が展示や講座などを通じて地域で生き生きと活動を続けられるよう、都の福祉部門とも連携を図っていく。

5.情報発信、広報宣伝 

 情報誌等の図書の刊行・頒布を行い、各種情報や行事の発信に努める。美術館の活動や学芸員による展覧会の見所やスケジュール等を掲載し、多くの人々に広く周知、興味や親しみを抱けるようにする。

 ポスター・チラシなどの印刷媒体については、展覧会開催ごとに目を止める人の多い鉄道駅や社会教育施設への設置を重点的に行い、媒体の特質と情報へのニーズを結びつける広報を展開していく。

 ネットメディアでは、広報活動を支援し、情報発信機能を高めるため、ホームページを開設する。年間展示予定、展覧会情報、データベース等を掲載するなど、年間を通した利用促進を図る。また、SNS等を活用し、展覧会や各種イベント等の情報をリアルタイムに提供する。他にGoogle Arts & Cultureなどへの作品画像の提供により、優れたコレクションを広くアピールしていく。

6.他の博物館・美術館との連携

 東京都内の江戸東京博物館すみだ北斎美術館や、中山道広重美術館など、中山道の宿場町に点在する博物館・美術館と協力、連携して、共同研究、共同事業などを通じて地域との協働・交流を促進する。また、他団体が開催する事業に対し、資料貸出し、企画、講師派遣で協力する。

7.その他の事業

空きスペースをテナントとして飲食店などに貸したり、アーティストやグループなどの展示イベントなどを行えるスペースなどとし、気軽に立ち寄れる場所にするとともに、収益化も行う。

 

(7)館建設の意義と館の特徴

 国芳は、江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人であり、画想の豊かさ、斬新なデザイン力、奇想天外なアイデア、確実なデッサン力を持ち、浮世絵の枠にとどまらない広範な魅力を持つ作品を多数生み出した。そのユニークな画風から、奇想の絵師などと呼ばれ、近年再評価の気運が高まり、広い世代の人気を集めている。当時の人々の圧倒的支持を得、多くの門人が集まり、浮世絵師の最大派閥を形成した。浮世絵の新機軸を生み出し、絵師たちに意識改革を与えたことは国芳の大きな偉業のひとつといえる。これらからは現代日本にて盛んな漫画・劇画の源流の一つを見る事ができる。大鯨も妖怪も大海原も縦横無尽に描かれた国芳の絵は、江戸の人々だけでなく、その系譜は昭和の日本画家まで連なり、現代の私たちも魅了し続ける。読本や芝居のアクションシーンなど物語を描くことが十八番だった。その物語性によって、マンガやアニメと同じような感覚で、今、広く受け入れられてたのかもしれない。

 そこで、地域ゆかりの人物である、歌川国芳のコレクションを集めることにより、作風がその後に与えた歴史を辿れるようにする。現在の文化へと結びつけ、鑑賞することにより、国芳の顕彰を通じて地域に愛着を深める場を提供する。また、子供の教育や、都民の生涯学習の場としての意義も持たせていく。地域文化の継承と発展の場として、地域とのつながりを重視した、息の長い施設づくりをめざす。これらの事業活動を通じて国内外に向けて情報を発信し、交流の場として、歴史と変化のある美術館として東京における文化と芸術の情報拠点となることをめざす。

 

参考文献

博物館学入門―地域博物館学の提唱』金山喜昭(慶友社)

 

 

『美術館商売―美術なんて…と思う前に』安村敏信勉誠出版

 

 

『アーツ・マネジメント概論 三訂版』小林真理・片山泰輔 監修(水曜社)

 

 

『美術展の不都合な真実古賀太新潮新書

 

 

『新時代の博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会編(芙蓉書房出版)

 

新時代の博物館学

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『新しい博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会(芙蓉書房出版)

 

新しい博物館学

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『現代の記念物崇拝―その特質と起源―』アロイス・リーグル(中央公論美術出版

 

 

博物館教育論 幼少、少年期における博物館教育の重要性について

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(約3500文字・購読時間4分20秒)

 幼少、少年期における教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであり、 健全な発達のために必要不可欠である。それらの活動を通じて培われたものが基礎となり、生涯にわたる発達を支える。生涯学習においても、幼少、少年期に味わった学びの喜びが、生涯にわたり主体的に学び続けることの喜びの基礎となると考えることができる。学びの喜びを味わうと同時に、美術館を含む博物館を利用する機会を得て、美術館で学ぶことの面白さに触れることは、生涯にわたり社会教育機関を有効に活用しながら学び続けることへの端緒となるのではないだろうか。

 博物館と学校とが望ましいかたちで連携・協力し合いながら、子供たちの教育を押し進めていこうとする取り組みとして博学連携がある。博物館や美術館は地域にある社会教育施設で、いずれも貴重な教育資源であると言える。これまでは、博物館を見学する機会は社会科や総合的な学習の時間、学校行事などであった。しかし施設見学では博物館側の担当者と十分な打ち合わせをすることなく、見学が学校や教師の都合だけで行われたり、逆に施設の担当者にすべて任せてしまったりするなど、学校と博物館との連携が十分とれないままに行われてきた。 そのために、博物館のもつ豊富な情報や教育的な価値が学校の教育活動に十分生かしきれなかったと言える。 博物館と連携をとり、教育的価値を学校として活用することが学習に有効であると考える。博物館には学芸員などの専門家がおり、教科書では見られない実物や本物の教材がある。教室とはまた違った学習の場になる。もう一つの学校としてとらえることによって、子どもたちの学びの場や内容を広げることができる。

 そこで、博学連携は博物館と学校がそれぞれの教育機能を活かして連携・協力し、よりよい形で子供たちを教育していこうとする活動と考えることができる。ティーティーチングの形式で先生と活動すること、基本的プログラムをもとに授業や来館して学ぶ内容などを一緒に検討している。一方通行ではない、相互連携の形式で行なっている。学校と博物館が連携・協力し推進していく教育活動は多種多様である。博物館の機能を活用することで、自らすすんで見たり、聞いたり、調べたりし、そのバックグラウンドを考えたり、内容をまとめてみんなに伝えたりすることができる。また、視覚、聴覚、触覚などによる体験活動を伴う学びを行うことで、より高い興味・関心やより深みのある知識、より豊かな情操を育んでいくことができると考える。学びの場における学校と博物館の関係は極めて強いものだといえる。 博物館文化、及び生涯学習の意義が更に社会に浸透することで、日本でも、生涯学習が人々のキャリアや余暇活動に良い影響を与えて人生を豊かにし、社会・経済の発展にも貢献するものであることが認知され、より豊かな社会づくりに寄与することができるだろう。そのためにも、今後も博物館はその機能を拡張し、多様なニーズを創出し応えていく必要がある。

 最近の博物館では、見て学ぶだけでなく、触って、試して、体で学べるような参加体験型、ハンズ・オン型も工夫されている。それぞれの博物館の特質を生かした利活用が求められる。 一般には、学校から博物館に直接出向くことが多く行われている。これはこれで教育的な利用方法だが、学校が博物館から離れていたり、時期的に見学することが困難だったりすることがある。展示物の一部を貸し出したり、学校を巡回しながら展示したりしている博物館もある。移動博物館、出張展示などと言われている。博物館の学芸員などに出前授業を依頼することもできる。 博物館と学校の双方がそれぞれの特質を発揮しながら、連携・協力体制をつくることが重要なポイントである。さらに、これからの新しい博物館像として、集めて、伝えるという基本的な活動に加えて、市民とともに資料を探求し、知の楽しみを分かち合うという博物館文化の創造が必要になる。すなわち、これからの博物館の望ましい姿は、交流、市民参画・連携する学習支援機関としての役割の充実である。教育システムでは家庭教育、学校教育、社会教育を結ぶラインの中で、責任区分が明らかになり、博物館本来の教育機能を発揮することを強く求められており、欧米の博物館がいち早く教育重視の方向を打ち出し、博物館の全ての活動は教育に収斂されるとしたのは、まさに時宜を得たものである。 

 何を学ぶかを迷い、時には遊んだり、楽しんだり、そして学んだりするといったプロセスが展開される。今までの学習経験を振り返り、何を学ぶかを選択することになる。学校における半ば強制的な学習と博物館等での自由選択学習の体験から、子供たちは内面に多様な意味を形成し、その経験に基づき、将来の学習の道筋を選択していくだろう。このような学校教育と自由選択学習の繰り返しが、将来の学習の道筋を見通し、生涯学び続ける態度を形成することになる。子供たちは学校で訪問した博物館がきっかけとなり、休日に個人で博物館に行くこともあるだろう。あるいは大人になってから学校で見学した博物館のことを思い出し、親として子供をつれて博物館を訪れるかもしれない。博物館は学校による博物館利用を子供たちの次の個人利用に結びつける工夫をする必要がある。

 江戸東京博物館では館員の研究成果を都民に還元すべく、えどはくカルチャーを行なっている。都民に開かれた生涯学習及び知的交流の場として、広く一般を対象に、入門又は専門的な関心を深めるための講座・セミナー・ワークショップ等を企画・実施し、子どもから大人まで幅広い層を対象として、江戸東京の歴史と文化を学べる機会を創出するなど、都民の文化活動を支援していく。江戸東京の有形・無形の文化遺産と伝統文化を次世代の人々に継承すべく、改修後のホールを活用し、落語をはじめ、琴、長唄、筝曲、日本舞踊などを紹介する場としている。 具体的には、常設展示室内中村座前アリーナで開催する、えどはく寄席、学芸員による収蔵品を活用したワークショップ 、東京都の伝統工芸士などによる体験型ワークショップなどがある。

 子どもたち及び青少年を対象とする企画としては、次代を担う子どもたちや青少年を対象として、参加体験型事業、学校と連携したスクールプログラムなどを企画・実施し、江戸東京の歴史と文化にふれる機会を提供するとともに、文化のリテラシーを育み、歴史と文化を継承していく。 小学生から大学生を対象とした 学校教育に連動したスクール・プログラムとして訪問学習・職業体験学習、教育普及ツールの配布、教員向け利用相談会などを行なっている。 学習施設としての性質を明確に打ち出し、次世代へ歴史と文化の継承を図っている。次代を担う子どもたちや青少年を対象とする教育普及事業を企画・実施している。学校との協働、社会科見学、修学旅行、平和学習、環境学習などの独自プログラムを開発し、学校団体の利用を促進している。またフリースクールなど各種学校との連携を促進している。 

具体的にはえどはく寄席の小中学生向け公演である、伝統芸能ウィーク 、大学書道科学生によるワークショップ正月書初め体験、ボランティアによる伝統文化を体験するワークショップのふれあい体験教室がある。

 博物館は、その特徴である資料の収集や調査研究等の活動を一層充実させるとともに、多様化・高度化する学習者の知的欲求に応えるべく、自主的な研究グループやボランティア活動などを通じて、学習者とのコミュニケーションを活性化していく必要がある。情報化の進展やニーズの多様化とともに、特に新たな公共を担う拠点として博物館には教育サービスの充実が求められる。 こうした社会の要請にこたえるためにも、博物館の規模に応じて適切な人数の学芸員が配置されるよう体制面の整備が必要である。また、学芸員あるいは博物館同士が組織や地域の枠を越えて互いに連携協力していくことにより教育サービスが向上することが考えられる。このような連携・協力を具体的に実現できる技能はこれからの学芸員の要となる能力である。これからの学芸員には専門分野に関する幅広い知識のみならず、教育能力やコミュニケーション能力、経営能力がますます重要な資質・能力となっている。

 さらに、最近では、物質的な充足感を求めるだけでなく、精神的な満足感を追求し、充実した生活スタイルを目指そうという人達が増えてきている。こういった社会の現象が美術品や歴史資料といった文化財への関心の高まりにも繋がっている。

 

参考文献

『博物館の学びをつくりだす その実践へのアドバイス』小笠原喜康、チルドレンズ・ミュージアム研究会 編著(ぎょうせい)

 

『新時代の博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会編(芙蓉書房出版)

 

新時代の博物館学

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『新しい博物館学』全国大学博物館学講座協議会西日本部会(芙蓉書房出版)

 

新しい博物館学

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